親の家の転倒リスクは、段差だけではありません。じゅうたんの端、電気コード、暗い廊下、滑りやすいスリッパ、ベッドや椅子の高さ、本人の歩き方が重なると、わずかな引っかかりでも転倒につながります。

家族が最初にすることは、手すりや福祉用具を買うことではありません。親に普段どおり歩いてもらい、どこで立ち止まり、何につかまり、どこで足元が不安定になるかを一緒に確認します。

点検は次の順で進めます。

  1. 本人と一緒に玄関から寝室・トイレまで普段の動線を歩く
  2. 段差、敷物、コード、暗さ、滑りやすさを写真とメモで残す
  3. 通路上の荷物やコードなど、すぐ整理できるものを直す
  4. 転倒歴、めまい、痛み、歩き方の変化を医療・介護職へ伝える
  5. 固定手すり・工事・福祉用具は購入前に相談する
  6. 介護保険を使う可能性がある工事は、着工前に自治体手続きを確認する

強い痛み、頭を打った、意識や受け答えがおかしい、立てないなどがある場合は、住環境の点検を続けず医療・救急へつないでください。

家庭内転倒で見る二つの面

国民生活センターは、75歳以上の高齢者の家庭内事故では転倒が最も多いと注意喚起しています。1〜2センチの敷居、じゅうたんの端、コード、スリッパも原因になり得ます。

転倒予防では、家の環境と本人の身体状況を分けずに見ます。

環境面身体・生活面
段差、敷物、コードすり足、ふらつき
照明、夜間動線視力、めまい
滑る床、履物痛み、筋力低下
手すり、家具配置杖・歩行器の使い方
ベッド・椅子の高さ服薬後の眠気など

家族は診断せず、「いつ、どこで、どの動きが不安定だったか」を記録し、医師、理学療法士・作業療法士、ケアマネジャーなどへ伝えます。

玄関

玄関では、上がり框の高さ、靴の脱ぎ履き、つかまる場所、靴や傘の散乱を見ます。

  • 靴が通路に広がっていないか
  • 不安定な下駄箱や壁へ手をついていないか
  • 靴を立ったまま履いていないか
  • 外から入った直後に暗くないか
  • 雨の日に床が濡れて滑らないか

椅子や手すりを置く場合は、本人の立ち座りや住宅条件に合うかを専門職と確認します。

廊下・階段

夜間に寝室からトイレへ行く動線を実際に確認します。

  • 敷居や小さな段差
  • めくれたマット
  • 延長コードや充電ケーブル
  • 廊下の荷物
  • 照明スイッチの位置
  • 階段の荷物、踏面の見えにくさ
  • 手すりが途中で切れていないか

コードは壁際へ寄せ、階段に物を置きません。照明切れは早めに直します。固定手すりの高さや位置は、本人の体格と動作を見ずに家族だけで決めないでください。

浴室・脱衣所

浴室は床が濡れ、またぎ動作や立ち座りが増える場所です。

  • 脱衣所と浴室の段差
  • 濡れた床の滑りやすさ
  • 浴槽のまたぎ高さ
  • シャワーチェアの安定性
  • 浴槽出入りでつかまる場所
  • 石けんやボトルが足元にないか
  • 入浴前後のふらつき

市販のマットも、めくれやズレが新しい危険になる場合があります。本人の動作に合うか確認します。

トイレ

夜間利用、衣服の上げ下げ、便座からの立ち上がりを見ます。

  • 寝室からトイレまで暗くないか
  • 扉の開閉で足元が狭くならないか
  • トイレットペーパーなどを床置きしていないか
  • 立ち上がる時に不安定な棚へつかまっていないか
  • 急いで歩く理由がないか

扉の変更や手すり工事は介護保険住宅改修の対象になり得ますが、個別の給付可否は自治体へ確認します。

寝室

起き上がり、ベッドからの立ち上がり、履物、夜間照明を見ます。

  • ベッドや布団から無理なく立てるか
  • 立った直後にふらつかないか
  • 足元に衣類やコードがないか
  • 脱げやすいスリッパを使っていないか
  • 照明を寝床から操作できるか
  • トイレへの動線が空いているか

ベッドの高さは高ければよい、低ければよいと一律には言えません。本人の膝や足の状態、立ち上がり方を専門職へ相談します。

台所・居間

  • マットの端がめくれていないか
  • 電気コードが通路を横切っていないか
  • よく使う物が高所にないか
  • 脚立や不安定な椅子へ乗っていないか
  • 床に新聞、袋、箱を置いていないか
  • 椅子が軽すぎて、つかまると動かないか

「片付ければよい」と家族が一方的に物を捨てず、本人が使う物と動線を一緒に確認します。

介護保険の住宅改修

厚生労働省が示す主な対象工事は次のとおりです。

  • 手すりの取付け
  • 段差の解消
  • 滑り防止・移動円滑化のための床または通路面材料の変更
  • 引き戸等への扉の取替え
  • 洋式便器等への便器の取替え
  • 上記に付帯して必要な工事

支給限度基準額は20万円です。20万円がそのまま現金支給される意味ではなく、本人の負担割合、過去の利用、工事内容などが関係します。

原則として工事前に市区町村へ申請し、見積り、理由書、改修予定が分かる写真・図などを提出します。事前確認は完成後の支給決定とは別です。着工前にケアマネジャーと自治体へ相談してください。

賃貸住宅は、介護保険手続きとは別に所有者・管理会社の承諾が必要になる場合があります。

福祉用具を買う前に

杖、歩行器、固定工事を伴わない手すりなどは、貸与・販売の区分や要件が関係します。厚生労働省は、福祉用具事業者へ相談し、すでにケアプランがある場合はケアマネジャーにも事前相談するよう案内しています。

家族だけで選ぶと、本人の歩幅、握力、家の幅、段差に合わない可能性があります。試用できるか、調整や点検は誰がするか、介護保険の対象かを確認します。

部屋別・転倒リスク点検表

使い方

昼と夜に一度ずつ、本人と普段の動線を歩きます。「危険」と決めつけず、実際の動きを見て、直すこと・相談すること・様子を見ることに分けます。写真を撮る場合は本人の了承を得ます。

場所確認項目状態対応担当・期限
玄関靴、段差、つかまる場所靴が3足出ている使わない靴を収納本人・今日
廊下コード、敷居、照明コードが横切る壁際へ固定長男・今週
階段荷物、手すり、明るさ荷物あり荷物を移動本人・今日
浴室滑り、またぎ、手の位置浴槽で不安ケアマネへ相談長女・金曜
トイレ夜間動線、立ち上がり棚につかまる動作を専門職へ共有長女・次回
寝室ベッド高、履物、足元灯スリッパが脱げる履物を相談本人・今週
台所マット、配線、高所マット端が浮く撤去可否を話す本人・今日

確認順

  • 本人に点検の目的を説明した
  • 昼の動線を一緒に歩いた
  • 夜間の寝室〜トイレを確認した
  • 過去の転倒・つまずき場所を聞いた
  • すぐ片付ける物と、相談する設備を分けた
  • 工事前にケアマネジャー・自治体へ確認した
  • 賃貸なら所有者・管理会社へ確認した

記入例

「浴室に手すりがない」だけで工事を決めず、「浴槽をまたぐ時、右手で蛇口へつかまりふらついた」と動作を書きます。専門職が、本人の使う手や移動方向を判断しやすくなります。

注意例

  • マットを増やして端につまずく危険を作らない
  • 軽い家具を手すり代わりにしない
  • 本人の動きを見ずに手すり位置を決めない
  • 介護保険を使う工事を申請前に始めない
  • 転倒後の痛みや意識変化を「年齢のせい」で済ませない

介護全体の準備は親の介護準備で最初にやることで確認できます。工事や支援の相談先が分からない場合は、地域包括支援センターに相談するタイミングを参考にしてください。

よくある質問

介護認定前でも点検できますか

家族による住環境の点検はできます。介護保険の住宅改修や福祉用具を利用したい場合は、認定や手続きの条件が関係するため、着工・購入前に地域包括支援センターや自治体へ相談します。

20万円まで無料で工事できますか

無料とは限りません。20万円は支給限度基準額で、本人の負担割合、対象工事、過去の利用等が関係します。見積りと申請結果を自治体へ確認してください。

手すりの位置は家族で決められますか

本人の体格、使う手、立ち上がり方、動線で適切な位置が変わります。ケアマネジャー、理学療法士・作業療法士、住宅改修の専門職などへ相談します。